考えるを考える
創研の最終的な目標は,「創造力」を身につけること
「創造」は,この世にない全く新しいものを現実に創り出すことです。似た言葉でよく目にする「想像」は,思い描くだけで現実化は特に問いません。創造が行えるのはキリスト教的には創造主たる神のみですが,ここでは世にない新しいものや価値を科学的に創り出すという狭い意味で用いています。ノーベル賞を頂点とする科学的な新しい発見や発明には必ず創造が伴っています。
では,創研が目指す創造は,どうすれば行えるようになるのでしょうか。研修に参加して話を聞きさえすれば,すぐに身につくのでしょうか。答えは,ノーです。創造を目指したからと行って,いきなり創造が行えるようにはなりません。創造するには最高レベルの論理的思考能力が必要になります。その獲得には,集中と反復をひたすら繰り返す必要がありますが,特別な才能が必要なわけではありません。創研で実践しているメソッドを身につければ,だれでもが徐々に行えるようになるのです。
若き日に研修中の大谷隆彦先生 (1963年)
論理的思考力を身につける
創造の基礎となる論理的思考力は,科学では欠かせないものです。大学では,どんな学部でも卒業までに論理的思考力を身につけられるようになっているはずですが,かなりの学生が論理的思考力を身につけないまま卒業しているように見受けられます。これには様々な要因が指摘されていますが,試験前にひたすら暗記し,分からないことは考えずに検索で済ますという習慣が身に染み付いてしまっているためかも知れません。理系の学生であっても思考=検索と考えている学生が少なからずいるのには驚きを隠せません。
では,論理的思考力を身につけるのはどうすれば良いでしょうか。大学で講義を聞いただけで,ひとりでに身につくことはありません。論理的思考力の獲得には,ひたすら考える訓練をするしかありません。創研では,集中と反復をひたすら繰り返すことにより論理的思考力を高め,最終的には創造にまでたどり着けるようなメソッドを学びます。
前列左から加藤先生 卜部先生 能勢さん (1964年)
なぜ,なぜ,なぜ
学生が,創研の発表でよく直面するのが「なぜ?」と3回質問されることです。「それはなぜ?」と質問を3回掘り下げられると,ほとんどの学生はそれ以上答えることができません。質問の内容がその学生の専門分野であったとしても,答えられないのです。学生にとっては,2回目, 3回目の質問はそれ以上考える必要のない常識として捉えているので,なぜ質問されているのかを始めは理解できません。
ここに創造のヒントが隠されています。常識だと思ってそれ以上考えるのをやめると,そこで考えが止まってしまい,新しいアイデアを考えつくことはできません。創研では,「なぜ」による自問自答を繰り返すことにより,論理的思考力を高める訓練を行うとともに,物事の本質を見抜く能力や真に解決すべき問題は何かという問題発見能力も同時に養います。
大谷先生の鋭い質問 (2010年)
考えるを考える
創研では研修期間中,ひたすら考えることを要求されます。始めは「考えよ」と言われても多くの学生はうまく考えることができません。さらに,創研では考えるテーマも自分で考えるため,何から考え始めたら良いかも分からない状態に陥ります。それでも発表のためには何かしらを考えなければならないため,もがき苦しむことになります。これを約2週間続けると,ヘロヘロになり何もアイデアが出てこない状態になります。
このような状態を作り出すことが創研の目的の1つです。極限状態に身を置くことで,考えることとはどういうことかに正面から向き合い,徹底的に追求することで,少しずつ思考法を習得していきます。この極限状態にあっても創研のメソッドの1つである集中と反復を繰り返せば,少しずつアイデアを生み出せるようになっていく学生が現れてきます。加藤先生曰く「ぴょこっと」問題解決のアイデアを生み出せるようになるのです。このような能力のベースになるものを加藤先生は「直覚」と呼んでいます。
発表風景 (2010年)
A manを育成する
A manとは
創研の目的は,「創造力」の涵養とともに「A man (エイ・マン)」の育成です。それぞれの学問分野にはその分野を創り出し,流れの元となった研究者が必ずいます。A manは,そのような唯一無二の研究者を指します。創研創始者の加藤先生は,最高の創造ができる人で,次の世代の人材を育成できるリーダーシップを持ち,かつ「心の清い人」をA manだと説き,創研でそのような人物を育成しようと考えました。
今,日本でもやっと創造できる人材を育成しようという機運が高まっています。これまでのように欧米の追従だけでは日本は立ち行かなくなりつつあるからです。加藤先生は60年以上も前にこのことを見抜き,創研によってA manを育成しようと考えたのです。ただし,天才の出現をただ待つのではなく,誰でも訓練をすればA manに近づけると考え,創研を創始しました。
晩年の加藤先生
A manの必要性
企業などで新しい製品やサービスを生み出すときに,グループでアイデアを出し合うブレインストーミングがよく行われます。これは,何かを少し改良したり,目先が変わったものを生み出すには最適な方法かもしれません。しかしながら,これまでにはない全く新しいものを創造するときには,この方法は全く役に立ちません。加藤先生曰く衆知を集めても創造はできないのです。やはり創造力を身に着けたA manが切り開くしかないのです。
A manを育成できれば,社会や企業にも多大なるメリットが生まれます。これまで巨額の資金と膨大な時間を投入していた課題が,A manによる創造で一気に解決する可能性が高まるのです。A manを多く生み出せた国なり組織が繁栄を築くことになるので,欧米ではA manを尊敬し,重用しています。研究所などを組織するときも,欧米ではまずA manをリーダーに定め,その人が自由に組織を作っています。これにより,A man再生産の好循環が生まれるのです。ノーベル賞受賞者が特定の組織に集中するのはこのためです。
軽井沢の研修所で加藤先生の思い出を語る山﨑氏